K-Systemとは
米国のマスタリング・エンジニア、Bob Katzが考案したレベル管理手法K-Systemについて解説します。
これは概略ですので、英文が読める方は本家を参照いただく方がよろしいかと思います。
同システムは、音圧戦争の(今となっては)初期である2000年に発表され、2014年9月に発売されたMastering Audio 第3版にて、考案者自らが「その歴史的役割を終えた」としました。2012年より世界各国で運用が開始されたITU-R BS.1770-3/ EBU R128がラウドネス基準として大変有効で、またすでに効力を発揮している状況を受けてのことです。
K-Systemはラウドネス・メータとは異なり、帯域ごとの聴感レベルを考慮しない点において一般的なVUメータと同じ弱点を抱えていますが、その発想自体は、デジタル・ピークから解放されたミックス環境を構築する上でいまだ有効で、また理解しやすいと考えます。K-System対応のメータは意外と多くのソフトウェアに導入されており、今日からすぐにでも実践できるという手軽さもあります。
K-meter採用ソフトの一例
- T-Racks (IK Multimedia)
- Ozone (iZotope)
- Studio One 2(Presonus)
- Wavelab (Steinberg)
- Precision Limiter (Universal Audio)
- Xenon (PSP audioware)
- Spectrafoo (Metric Halo)
- SPAN (Voxengo)
旧来のワークフローが抱える問題点
K-Systemの解説に入る前に、Katz氏の考える、従来のメータリングや制作環境の問題点を挙げます。
- 視聴レベルの基準音圧(再生音量)がない
正しい音量バランスの判断を行うには、日頃から一定の音量で作業をするよう心がける必要がある。しかし、実際には作業環境が異なるとスピーカの基準レベルも異なり、一貫させるのは難しい。
- ピーク・メータが重要視されすぎている
0dBFSという「天井」があるがために、その近くまでいかに詰め込むかを競うようになってしまった。ピーク・メータを見ず、耳だけを頼りに作業できる環境が望ましいと考える。
- 収録レベルの統一基準がない
作成した音源を、どのぐらいのレベルでマスターに録音すればいいのか?その指針となる基準が必要。ただし、マキシマイザやBrick Wall Limitterを要するほど高い基準値を設けると、それは再び「天井」を意識させることになり本旨からはずれる。収録時の基準レベルとされるものは、0dBFSピークを意識させる必要がないぐらいに十分にヘッドルームが確保されていなければならない。
- VUメータが直線的でない
右図を見ればわかるよう、上位6dBの表示に目盛りの大半が割り当てられている。
これは、メータが常にこの範囲内になければならないという誤った認識を与え、本来、弱音部からクライマックスまで幅広いレンジを活かせたはずの曲に対しても、レンジを狭めさせるよう示唆しかねない。
正しく運用すれば、これらの問題を一挙に解決できることからもわかるように、K-Systemはただのレベル・メータ作成規準ではありません。
K-Systemに準拠する環境の構築
K-Systemの環境構築は簡単です。
- マスター・バスにK-Systemのメータを立ち上げ、「K-20」の設定を選択します。
- ピンク・ノイズを再生し、さきほど立ち上げたメータが0を指すようにトラックのレベルを調整します。
テスト用の各種信号ファイルは、こちらからダウンロードできます。
また、PSP audioware Xenonには、システム調整用のピンクノイズ生成機能が内蔵されています。 - 片方のスピーカからノイズを再生します。
- SPLメータをC-ウェイトに設定し、リスニングポジションにて表示が83dB SPLとなるよう、スピーカのボリュームを調整します。 上図iOS用無料アプリ「dB Volume」などでも、この用途において十分に正確な測定が可能です。 調整は、DACの出力、またはモニタ・コントローラなどで行います。ソースのトラックなど、メータよりも前段でレベルを調整しては無意味です。
- 調整を終えたらスピーカを一旦ミュートし、反対側のスピーカも同様に調整します。
作業手順
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曲の展開に合わせて、おおよそ以下のようにメータが振るようにレベルを調整しながらミックス/マスタリング作業を進めます。
先ほどのVUメータとは異なり、メータの上から下まで、1目盛りが1dBに対応することにご注目ください。- 0dB … 曲中、フォルテのパッセージ
- 4~6dB(レッド・ゾーン)… フォルティッシモのパッセージ
- あとはメータと耳だけを頼りに作業を進めます。ピークメータは決して見ません。
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完成したミックスは、そのレベルのままに媒体に収録します。
※32ビット浮動小数点数で書き出せば、広くマージンをとったことによる信号劣化の心配はありません。
K-Systemのレベル管理
実際に作業をしてみるとわかりますが、K-20のメータで上記の作業を行ううちは、滅多なことでは信号は0dBFSを越えてオーバーロードすることはありません。
さて、さすがに平均レベルが-20dBFS前後では、現行の市販ポップスとはレベル差が大きくなりすぎます。そこで、K-20メータの他に、用途に合わせてK-14、K-12メータを使用します。
K-14メータは、ポップスなど(ダイナミック・レンジが比較的狭い音楽の収録に使用します。
K-12は放送素材など、さらにダイナミックスの狭い素材を収録する際に使用します。
これら3つのメータの違いは、0dBFSまでのヘッドルームだけです。
また、メータを切り替えた場合は、それに応じてスピーカの出力音量も同時に調整します。
例えば、使用するメータをK-20からK-14に変更する場合、これに伴いスピーカの出力も6dB下げます。
いずれのメータを使用する場合でも、ピンクノイズをメータの0位置に合わせて再生したとき、リスニングポジションでの音量が各チャンネル83dB SPLになるという原則は変わらないということです。
この手法を実践すれば、収録レベルを天井に近付けなければ、という脅迫観念から解放されるので「サウンドにとって何がベストか」がミックス時の絶対的な基準になり、聴感上の音量を上げるためだけに広がりやダイナミック・レンジを犠牲にする必要がなくなります。マキシマイザでピークを潰してまで聴感上のレベル(ラウドネス)を上げたところで、リスナーは自分にとっての適正レベルにボリュームを合わせるだけです。